東京高等裁判所 平成5年(行ケ)227号 判決 1995年1月31日
東京都渋谷区鉢山町9番6号
原告
株式会社ビギ
同代表者代表取締役
大楠祐二
同訴訟代理人弁理士
佐々木功
同
川村恭子
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 高島章
同指定代理人
熊谷道夫
同
吉野日出夫
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 特許庁が平成1年審判第1029号事件について平成5年10月27日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文同旨
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、指定商品を平成3年政令299号による改正前の商標法施行令別表第17類「被服、布製身回品、寝具類」として、「MOGA」の欧文字を横書きしてなる商標(以下「本件商標」という。)について、昭和62年4月17日登録出願(昭和62年商標登録願第42303号)したところ、昭和63年12月16日拒絶査定を受けたので、平成元年1月13日審判を請求し、平成1年審判第1029号として審理されたが、平成5年10月27日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年11月29日原告に送達された。
2 審決の理由の要点
本願商標は、前記のとおりの構成からなり、前記商品を指定商品とし、昭和62年4月17日登録出願されたものである。
これに対し、登録第1101226号商標(以下「引用商標」という。)は、別紙に表示したとおりの構成よりなり、指定商品を前記第17類「被服、布製身回品、寝具類」として、昭和46年5月17日登録出願、昭和49年12月24日商標登録、昭和59年12月14日商標権存続期間の更新登録がなされているものである。
よって、本願商標と引用商標との類比について判断するに、本願商標の構成は前記のとおりであるから、本願商標よりは「MOGA」の文字に相応して、「モガ」の称呼を生ずるものである。
他方、引用商標は、別紙に表示したとおりの構成よりなるものであって、「MOGAR」の欧文字をややデザイン化して表したと容易に認識、理解されるものであるから、該文字よりは英語読み風に「モガー」の称呼を生ずるものというのが相当である。
そこで、本願商標より生ずる「モガ」の称呼と引用商標より生ずる「モガー」の称呼を比較するに、両者は、「モガ」の音を共通にし、「ガ」の音に長音を伴うか否かの差異を有するものである。しかして、両称呼の差異音である長音は、前音「ガ」を発音したままの状態で伸ばす音であり、前音の母音〔a〕に吸収され、余韻として感じられる程度のものであって、明確に聴取され難いから、両者を一連に称呼するときは、その語調、語感が近似し、彼此聞き誤るおそれがあるものといわなければならない。
してみれば、本願商標と引用商標とは、その外観及び観念の類比について論及するまでもなく、称呼において類似する商標であり、かつ、両者の指定商品も同一であるから結局、本願商標は、商標法4条1項11号に該当し、登録することができない。
3 審決の取消事由
審決の認定判断のうち、本願商標の構成とその指定商品登録出願の年月日、引用商標の構成とその指定商品、登録出願、登録、更新登録の各年月日、本願商標から「モガ」の称呼が生ずることは認めるが、その余は争う。審決は、引用商標から生ずる称呼の認定を誤り、かつ、取引の実情を看過した結果、本願商標と引用商標とが類似すると誤って判断したものであり、違法であるから、取消しを免れない。
(1) 引用商標から生ずる称呼について
審決は、引用商標の文字よりは英語読み風に「モガー」の称呼が生ずるものというのが相当であると判断したが、引用商標は、「MOGAR」の構成に相応して「モガール」の称呼が生ずるとするのが自然である。
第1に、「モガー」の称呼では、語尾に落着きがなく、自然とはいえない。
第2に、我が国でもファッションの分野を始めとして、あらゆる商品分野で、いわゆる世界の著名ブランドといわれる商標が数多く知られているところであるが、米国の商標のみでなく、フランス、イタリア、スイス等の商標も数多く、それらは、フランス語、イタリア語等の発音のままで広く知られているのであり、英語読み風に代えて称呼されてはいない。
商標中の「AR」、「ER」、「OR」等が「…ル」と発音されているものを例示すると、
「Cartier/カルティエ」(仏)
「Christian Dior/クリスチャン デイオール」(仏)
「Carven/カルバン」(仏)
「Charvet/シャルヴェ」(仏)
「Hermes/エルメス」(仏)
「Viscardi/ヴィスカルディ」(伊)
「Verbano/ヴェルバノ」(伊)
「Alberto Guardiani/アルベルト ガルディアーニ」(伊)
「Gherardini/ゲラルディーニ」(伊)
「Sarli/サルリ」(伊)
「Eterna/エテルナ」(スイス)
等々、数多くの商標が我が国で使用され、かつ、取引者、需要者に知られている。
このような、フランス語読み、イタリア語読みにも日常慣れ親しんでいる取引者、需要者にあって、商標の文字中の「AR」、「ER」、「OR」を常に英語読み風に「アー」、「イー」、「オー」と発音すると断言することは早計である。
これらのことから、引用商標からはフランス語読み風に「モガール」の称呼が生ずるというべきである。
そこで、本願商標より生ずる「モガ」の称呼と引用商標から生ずる「モガール」の称呼とを比較すると、前者は、「モ」と「ガ」というわずか2音という短い称呼でるのに対し、後者は、前半に「モ」「ガ」の音を含むものの、「ガ」の長音と語尾音「ル」を有する4音の称呼からなるものであり、語尾音「ル」は、舌の上で上歯茎を弾くようにして発する有声子音と母音との綴音であり、長音「ガー」に続くところから、語尾音であっても明瞭に発音され、かつ、聴取されるものである。
本願商標の称呼「モガ」は、短く明瞭な響きを持ち、取引者、需要者の意識にストレートに浸透する。本願商標と引用商標を一連に称呼するときは、語調、語感を全く異にし、称呼においても彼此相紛れるおそれはない。
以上のとおりであり、審決が、引用商標からは「モガー」の称呼が生ずるものとして、それと本願商標から生ずる称呼を対比して、両称呼の類否を判断したことは誤りである。
(2) 取引の実情について
原告は、本願商標を昭和47年頃より使用開始して、既に20年以上も継続して使用している。
すなわち、原告は、昭和45年7月23日の設立当時、まず主要商標である「BIGI」の商標の使用を開始し、その約1年後に、本願商標の「MOGA」の使用を開始した。「MOGA」の商標は、「BIGI」が対象とする若年層よりやや高い年齢層の25ないし30歳前後の仕事を持った女性を対象とし、昭和48年頃から全国展開を始め、「BIGI」の商標と共に原告の主要商標として広く知られるに至った。
原告及び原告グループは、従来の商品販売の型を破り、独自の商品販売システムによりD&C(デザイナー&キャラクター)ビジネスのトップにランクされるに至り、本願商標を付した商品の売上金額だけでも、平成2年10月から平成3年9月期までの1年間で57億5700万円という驚異的な額を達成するに至った。
本願商標にかかる商品をも含めて、原告の商品販売の特徴は、ワンブランドショップの形態をとっていることである。それは、オンリーショップともいわれるもので、百貨店やファッションビル内に一定の売り場を確保してブティックやショップを置き、1つの商標の商品のみを扱うものである。
このように、原告は、一定の商標のもとに商品の品質保証に重きを置き、消費者に直接手渡すという販売方法に徹し、テレビや新聞広告等を利用した大衆的な宣伝広告に頼ることなく業績を伸ばしてきた。もし、大衆的な宣伝広告をした結果、急激に売上を伸ばしたとしても、流行に激しく左右されるファッション業界にあっては、短命に終わることが多く、長年維持することはかなり難しいのである。
また、原告は、全国の書店で販売されているファッション雑誌等に本願商標を付した商品を掲載してきた。これらの雑誌とは、「ELLE JAPON」、「ハイファッション」、「an an」、「CLIQUE」、「流行通信」、「マリ・クレール」、「MORE」、「SPUR」であり、すべて月刊誌や週刊誌として多くの読者層を有している。
そして、本願商標を付した商品は、テレビドラマの衣装にも多数使用されているので、本願商標は、テレビのテロップでも流されている。
このような取引の実際にあって、本願商標について、引用商標と一度たりとも商品の出所につき誤認混同を生ぜしめる状況が生じたことはない。
商標を選択使用する意義は、自他商品の区別を明確にすると共に、商品の出所の誤認混同を防止し、取引者、需要者に不測の不利益を与えないようにすることである。
本願商標は、20年以上も継続して使用され、かつ、取引者、需要者の間に広く知られているという取引の実際にあって、たとえ、同一もしくは類似の商品に本願商標もしくは引用商標を使用することがあっても、彼此明瞭に区別し得るものであり、引用商標との間に、その出所等の誤認混同を生ずるおそれは少しもない。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の反論
請求の原因1、2は認めるが、同3は争う。審決の認定判断は正当である。
1 引用商標から生ずる称呼について
(1) 商標より生ずる称呼は、その商標が使用される商品の分野における一般の取引者、需要者が、通常どのように称呼するかという見地から検討しなければならない。
引用商標のように特定の読み方が定まっていない造語商標は、商標に接する一般的取引者、需要者の通常有する語学知識に応じて発音される称呼をもって取引に資せられるのが普通であるところ、我が国においては、英語が義務教育の段階から取り入れられ、また、日常生活においても、英語を語源とする多数の外来語が使用されているところから、英語は、フランス語、ドイツ語その他の外国語に比し、極めて広範囲に普及しているのが現状である。したがって、欧文字により構成された、特定の観念を有しない造語商標が商品に使用された場合、これに接する取引者、需要者は、該商標が特定の読み方で知られている場合を除いては、まず、英語の発音方法を念頭において欧文字を見て、その発音方法にならい、無理なく自然に読み得る場合には、英語風の読み方によって生ずる称呼をもって取引に当たることが一般的であるといわなければならない。
いわゆるファッション性の高い被服に関しては、フランス語読み、イタリア語読みも広く親しまれているという原告の主張を必ずしも否定するものではないが、被服の分野における一般の取引者、需要者にとっても、英語が外国語として最も親しまれていることは、紛れもない事実である。
原告は、ファッションの分野を始めとして、あらゆる商品分野で、フランス、イタリア、スイス等の商標も数多く知られ、それらは、フランス語、イタリア語等の発音のままで広く知られていると主張するが、原告が示す事例の多くは、フランス、イタリア等における人名あるいは企業名に由来するものとみることができるから、これらが、当該国での使用言語の発音方法にしたがって、フランス語読みあるいはイタリア語読みされて使用されることは、むしろ当然とも言うべきことであり、このことをもって、直ちに被服関係の商品に使用される造語商標は、フランス語読みあるいはイタリア語読みされるのが自然であるということはできない。
商標中の「AR」、「ER」、「OR」の文字部分を「…ル」と読まず、長音で終わる商標は多数存在しており、被服関係の著名な商標でも、「GILMAR」は「ジルマー」、「BOGNER」は「ボグナー」、「GROSVENOR」は「グロヴナー」と称呼されている。
(2) 引用商標を構成する「MOGAR」の文字は、特定の観念のもとに読み方が特定されている語といえないばかりか、特にその綴り字がフランス語、イタリア語を連想させるものでもないので、該文字を称呼する際には、我が国で最も親しまれている英語の発音方法にしたがって称呼されるものとみるのが相当である。
該文字を構成する後半の「GAR」の綴り字の部分の発音は、たとえば、我が国でも親しまれている英語といえる「CIGAR」が「シガー」、「SUGAR」が「シュガー」、「VINEGAR」が「ビネガー」の如く、これを「ガー」と読むことにより、該構成文字全体としては「モガー」と無理なく称呼されるものである。
(3) したがって、引用商標より生ずる称呼について「モガー」の称呼を不自然であるとする原告の主張は失当であって、本願商標と引用商標とは、それぞれの構成文字より生ずる「モガ」と「モガー」の称呼において、称呼上類似の商標である旨の審決の判断に何ら誤りはない。
2 取引の実情について
(1) 本願商標は、婦人服に使用されているものの、これが婦人服の一般的な取引者、需要者の間に広く知られているということはできない。本願商標に接する一般的な取引者、需要者は、本願商標が婦人服(たとえばブラウス、ワンピース等)に使用される場合において、当該商品が原告の製造販売にかかる商品であることを直ちに想起し得るものではないとみるべきである。
また、原告は、本願商標を付した商品は、他社の商品と並べて販売されることはなく、したがって、引用商標を付した商品と、商品の出所について混同を生ぜしめるおそれはないと主張するが、他人の登録商標と類似する商標は、現実に誤認混同を生じているか否かにかかわらず、誤認混同を生じるおそれがあるから登録すべきではないのである。
原告が現在行っている、1つの商標の商品のみを扱うという販売方法は、必ずしも婦人服の一般的な販売方法とはいえず、販売方法の1つにすぎないのであって、商品の販売方法は、時代の趨勢等によりしばしば変化するものであるから、原告が現在行っている販売方法が将来も継続されるという保証は全くない。
さらに、業務の拡大等により、原告が本願商標の指定商品のうち婦人服以外の商品を製造販売し、これに本願商標を付する可能性も否定し得ないところである。
(2) 原告は、本願商標を婦人服について使用している旨を述べるにとどまっているが、本願商標の指定商品は、婦人服のみならず、総括的概念としての「被服」を含むところ、「被服」の中には、婦人服とは、生産者、用途、取引系統、需要者を著しく異にする「溶接マスク」や「防火被服」等の商品を含むほか、「被服」とは類似しない商品である「布製身回品、寝具類」をも含むものであるから、本願商標が、以上の商品に使用された場合では、婦人服に使用される場合以上に、該商品の取引者、需要者は、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるといわなければならない。
(3) 以上のとおり、取引の実情を考慮すれば、本願商標と引用商標が類似しないとする原告の主張は理由がなく、審決の判断に誤りはない。
第4 証拠関係
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
第1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。
また、審決の認定判断のうち、本願商標の構成とその指定商品、登録出願の年月日、引用商標の構成とその指定商品、登録出願、登録、更新登録の各年月日、本願商標から「モガ」の称呼が生ずることは、当事者間に争いがない。
1 取消事由1について
原告は、引用商標からは「モガール」の称呼のみ生じ、「モガー」の称呼は生じないとして、引用商標から「モガー」の称呼が生ずるとした審決の判断は誤りである旨主張する。
そこで、検討するに、引用商標の構成は、別紙のとおりであって、「MOGAR」の欧文字をややデザイン化して表記したものであるところ、これは造語であって、英語、フランス語、イタリア語等のいずれの言語にも該当しないものであると判断される。そうすると、これについては読み方が定まっていないといえるから、このように読み方の定まっていない造語商標は、被告の主張するように、商標に接する一般的な取引者、需要者が通常有する語学知識に応じて発音する称呼によって取引に資せられると判断するのが相当である。
我が国においては、義務教育の段階から英語が取り入れられ、日常生活でも最も身近に、頻繁に用いられ、英語を語源とする外来語も多数使用されている状況であって、英語は、フランス語、イタリア語、ドイツ語その他の外国語に比し、極めて広く普及していることは明らかである。そうすると、上記のような造語商標に接した取引者、需要者は、まず英語の発音方法によってこれを読んでみて、これが無理なく自然に発音されると考えた場合には、その詰み方によって生ずる称呼をもって取引にあたると考えるのが相当である。
引用商標の「MOGAR」の文字は、これを英語読みにした場合には、語尾の3文字である「GAR」は、単に「ガー」と発音されるにとどまるから、引用商標全体としては、「モガー」の称呼が生ずるとみるのが相当であり、そのような読み方が無理で不自然であるということはできない。
原告は、我が国では、ファッションの分野を始めとして、あらゆる商品分野で、いわゆる世界の著名ブランドといわれる商標が数多く知られており、米国の商標のみでなく、フランス、イタリア、スイス等の商標も数多く、それらは、フランス語、イタリア語等の発音のままで広く知られており、英語読み風に代えて称呼されてはいないとして、「Cartier/カルティエ」等の商標中の「AR」、「ER」、「OR」等が「…ル」と発音されているものを例示するところ、これらの商標は、当該国に実存する人名や企業名に由来するものが多く、その使用言語に基づく発音方法に従って称呼されている場合であるといえるから、このことをもって、直ちにファッシヨンの分野では、造語商標であってもフランス語、イタリア語等の読み方が普通に使用されているということはできない。
以上により、引用商標からは、「モガー」の称呼が生ずると判断するのが相当である。
そうすると、本願商標から生ずる「モガ」の称呼と、引用商標から生ずる「モガー」の称呼は、「モガ」の音を共通にし、「ガ」の音に長音を伴うか否かの差異しかなく、この長音は、前音「ガ」を発音したままの状態で伸ばす音であって、前音「ガ」の余韻として感じられる程度のものであって、明確に聴取され難いから、両者は、称呼として近似し、彼此聞き誤るおそれがあるものといわなければならない。
2 取引の実情について
成立に争いのない甲第12号証ないし第14号証、同第15号証の1ないし20、同第16号証ないし第19号証、同第20号証の1、2、同第21号証ないし第49号証によれば、原告は、昭和45年7月23日設立後、まず主要商標である「BIGI」の商標の使用を開始し、昭和46、47年頃から本願商標である「MOGA」の使用を開始し、「BIGI」が対象とする若年層よりやや年齢の高い、主にキャリア志向の女性のためのシックで落ち着きのあるウェアを目標とし、全国的に百貨店やファッションビル内の店舗における販売を展開し、これらの店舗における「BIGI」、「MOGA」その他の商標を付した被服の販売により、原告及び原告グループは、昭和61年頃には、国内で、D&C(デザイナー&キャラクター)ビジネスのトップクラスにランクされるに至ったこと、原告の販売店舗のうち幾店かは、店舗自体に、ショップ「MOGA」、ブティック「MOGA」というように「MOGA」の名称を付したものであり、販売方法としてはワンブランドショップもしくはオンリーショップと呼ばれる1つの店舗で1つの商標の商品のみを扱う形態を採用している場合が多いこと、また、商品の宣伝として、少なくとも昭和59年頃から「ELLE JAPON」、「ハイファッション」、「an an」、「CLIQUE」、「流行通信」、「マリ・クレール」、「MORE」、「SPUR」といったファッション雑誌に本願商標を付した商品の広告を掲載してきたこと、これらの結果、本審決時までに、本願商標を付した商品は、婦人服の分野で、取引者、需要者にかなり広く知られるに至っているという事実を認めることができる。
しかしながら、商品の販売方法は、時代により、販売の戦略により、しばしば変化していくものであるから、現在のような販売方法が今後も確実に継続していくということはできない。
また、本願商標の指定商品には、「被服」の他に「布製身回品、寝具類」が含まれているところ、これらのものについての販売方法、取引の実情等については、原告は、特に何も主張、立証していない。
そして、現在引用商標がどのような商品に使用されているか証拠上明らかではないが、本願商標が婦人服の分野においていかに著名であっても、同一指定商品について本願商標と称呼が類似する引用商標が登録されている以上、将来同一商品に本願商標と引用商標とがそれぞれ使用される結果、彼此聞き違え、商品の出所を誤認混同するおそれがることを否定できない。
したがって、本願商標と引用商標について、互いに同一または類似する指定商品のいずれのものについても、今後通常考えられる取引において、商品の出所の混同を生ずるおそれがないとの事実は、これを認めることができず、この点の原告の主張も採用することができない。
3 以上により、本願商標は、商標法4条1項11号に該当し、登録することができないとした審決の認定判断は正当であって、審決に、原告主張の違法は存しない。
第3 よって、本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 田中信義)
別紙
引用商標
<省略>